月隠れの庭

《ただし条件がある》


「条件?」

突然の申し出に、彼は首を傾げる。


《お前は見たところ旅の僧のようだが、この地に止まり時々我の話し相手になるのであれば、先の約束守ろうぞ》


人鬼の言葉に、正恵は思わず吹き出した。


《何がおかしい?》


「本当にお前は人間くさい鬼だと思ってな。…鬼にとっては長い時間の束の間だろうが、その条件で心が静まるのであれば私は喜んで受け入れよう」


《…………………》


その言葉に、人鬼は複雑な表情を浮かべる。

「所で人鬼、お前の名は何と言う?」

正恵の問いに、


《くくく、鬼に名を聞くか…抜け目のない…》


長い爪の指先を正恵の顎にかけると、じっと目を見つめた。

「あ」

そこで初めて彼は気づく。

「そうか…そうだったな。思わず聞いてしまったが、答えなくていい」

正恵は鬼の持つ『名前の大切さ』を忘れていた、と笑った。