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「1週間たったのに、目の腫れなかなかひかないね…」

寺の1人息子・平山流星(りゅうせい)が縁側に座って日向ぼっこしている津久見尚人(つくみなおと)の横顔を覗き込みながら、痛そうに顔をしかめる。

少し伸びた前髪の下に見え隠れしている瞼とその周辺は、見事なくらい赤紫に腫れていた。

「してはいけない罰が当たったんだから、仕方ないんだって。じいちゃんに言われた」

他人事のように尚人は笑う。

「でもボクが幽霊探しをしようって言い出さなかったら…」

まさか本当にあんなものが、自分の家の敷地内に閉じ込められているとは思いもしなかったのだ。


「ごめん、尚人…」


流星は俯くと、涙をポロポロとこぼして泣き出した。


尚人が開けた、古い蔵の中に閉じ込められていたのは《人鬼》。

生前の強い怨念や狂気によって人が姿を変えた鬼だった。

事件の後で知ったのだが、その昔流星の曾祖父・正恵(しょうけい)が、村人を苦しめていた人鬼を懲らしめる為にあの蔵へ閉じ込めたらしいのだ。

だが長い年月に鬼という存在は忘れ去られ、広い敷地内の片隅にあった小さな古い蔵の禁忌は語られなくなっていった。


「男の子が泣いちゃダメだよ。鬼の障気に当たったら誰でもこんな風になるけど、時間が経てばちゃんと治るから」

「な、なおど〜」

うわぁんと声を上げて、流星は尚人に抱きついた。


優しい流星は、尚人だけがひどい目に合った責任を感じているようだ。

そんな幼なじみの頭を、何も言わずヨシヨシと尚人は撫でる。

これは尚人たちが6回目のお正月を迎える、前日の話である―――。

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