「何だ、どうかしたか?」

「流星、ごめん!!貰った指輪、蔵の中に外して置いたままになってる!!」

「あぁ、いいよ。鬼の目がなくなったんなら、アレも必要ないからな。気になるんなら後で探してきてやるよ」


「でも…」


「その顔で歩き回るつもりか?」

流星はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて言った。

「う……」

「はははっ、少しゆっくりしてろ」

クシャクシャと髪を撫でると、

「腹減ってるだろ、何か食いもん持ってきてやるよ」

立ち上がり、部屋を出て行く。


「流星!!」


その背中に尚人は慌てて声を掛けた。

「どうした?」

「えっと…人鬼じゃない、本当の恒靖さんに…会ったよ」

「ふぅん…そっか」

サラリと返答されて、尚人は拍子抜けする。

「そっかって、驚かないのか?」


「どうして?驚かねーよ」


彼は小さく首を傾げて尚人を見る。

「そいつが目をお前に返したって事は、この世の未練がなくなったって事だろ。だったら、人間の姿に戻ったって不思議はないもんな」


「まぁ、そうだけど…」


「俺だったらまず無理だよ」


流星は小さく笑った。

「何百年も彷徨ってる魂を、あんな風に成仏させるなんて出来ない…なまじ、修行なんかしてるから力ずくでねじ伏せてしまうだろうな…」

「僕は何もしてないよ。ただ鬼になる前はどんな人だったんだろうって、そう思っただけ」

尚人は自信なさげ、おずおずと答える。


「…暖かな光だったぜ」


「流星、見たの!?」


「あぁ、蔵から離れた場所にいてもはっきり見えたよ。その時、成仏したんだなって思った…」

流星は優しく瞳を細めた。


「ありがとう…って言われた」


「お前は大したヤツだよ」

そう言って、流星は部屋を出て行った。


尚人は腫れた右目に触れる。


そこには冷たい、彼の指先の感触がまだ残っていた。
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