月隠れの庭

「お前はここで一生を終えたいのか?こんな黴臭い所から出て、自由に外の世界を見たいとは思わないのか?」

忠時は冷たい視線を息子に向ける。

「酷すぎる…兄上が亡くなって日も経たない内に、家督の話なんて…父上は悲しくないのですか!?」

親とは思えぬ言葉に、恒靖の抗う声は震えた。

しかし返ってきたのは、更に酷い侮蔑の言葉だった…。


「死んだ人間を悲しみ思って何になる…それより家を守っていく方が大切に決まっているではないか」


「な…」


「お前を生かしておいたのは、なぜだ?こうなる事が分かっていたからに決まっているだろう。でなければ、世間で忌み嫌われる者を匿う必要などあるものか。時崇はそれを理解していたぞ。だからお前に世の中の事を学ばせていた…お前に後を継がせる為に。あれはよく出来た息子だったな」

忠時は醜く顔を歪めて笑った。

元々、父親にいい感情を抱いてはいなかったが、それでも憎いと思った事は1度もない。

けれど、今は……。


「言いたい事は、それだけですか…」


恒靖の瞳から、再び大粒の涙が零れる。

「何?」

「家を守る為なら、息子の死を隠し世間をも欺く…そう言うのですか…」

「当然だ。先祖がそうしてきたように、子孫もまた守っていかねばならぬ。だから真島の家は栄えてきたのだ」

「それがあなたの答え…」

その言葉を聞いた瞬間、恒靖の中で何かが音を立てて崩れた。