月隠れの庭

一晩中泣いた。

声を上げて泣いた。

帰らぬ人を思い、泣いた。

悲しみを覆い閉じ込めるように、外では雪が静かに降り積っていく…。



そうして迎えた朝、それまで一度たりとも足を運んだ事のない父・忠時(ただとき)が牢に来ると、泣き疲れた息子に開口一番こう告げた。

「見れば見るほど時崇にそっくりだな。これなら世間の誰も、双子のお前と入れ替わった事には気づくまい。…よく聞け。お前は今から時崇と名乗り、家督として世間に振る舞え。いいな」


(私が時崇…家督…)


目の前の男が何を言っているのか、恒靖は理解できなかった。

「何だ、言葉が理解出来ぬのか?あれが教育していたと聞いておったが」

忠時は訝しげな表情を浮かべ小さく舌打ちをすると、座り込んだ息子の腕を掴み無理やり立ち上がらせる。

その痛みにハッと我に返った恒靖は、力を込めて振り払った。

「…何を馬鹿な事を!!時崇は兄の名前…あの人のものだ…私は…」

「私は…何だ?」

「………………」

恒靖は硬い表情で、小さく唇を噛む。

こんな人間に時崇から貰った大切な名を教える必要はないと、彼は思い止めた。