月隠れの庭

       ☆

「私はある郷士の家に、双子の弟として生まれた。…だが双子は当時《災い》とされ、人々に忌み嫌われる存在でしかなかった。上は生かされ、下は5歳の誕生日を迎える日に命を絶つ…そういう信仰めいた仕来たりが、どこよりも根強く残る土地柄で、当然のように私もそうなる運命を辿るはずだった…」


「でもそうはならなかった…?」


尚人は恒靖の容姿を見て小首を傾げながら尋ねた。

どう見ても彼は尚人より年上だ。

「なぜ父が私を殺さなかったのか…その時の私には知る由もなかった。5歳からの22年間、私は座敷牢に隔離され生かされ続けた。誰も訪れない小さな明かり取り1つだけの薄暗い部屋………そこを訪ね来てくれるのは、食事係の左吉と兄の時崇(ときたか)だけ。誰も私に関わろうとはしない…親に見放された子供には、名前すらなかった。そんな私に《恒靖》と名前をつけてくれたのは父でも母でもない、兄なんだ」


自分の名前を、大切そうに噛みしめ呟く。


「言葉の読み書きから、行儀作法、外の世界の事、流行りの遊びなど、こっそり訪ねてきては教えくれた。兄だけが私の心の支えだった…」

「お兄さんはとても優しい人だったんですね」

尚人の言葉に、彼は静かに頷いた。


「おかしな言い方かもしれないが、不自由ながらも私はそんな時間を幸せと感じていたんだよ………」


この生活がいつまでも続くと、恒靖は信じて疑わなかった。