月隠れの庭

巻き起こった風が止む。

辺りは再び薄闇に戻った。

静けさに目を開けた彼は、そこに信じられないものを見て驚く。


「あ…あなたは…」


光が消えた後に現れた、鬼の姿に言葉を失った。

腰まで届いた、黒く長い髪の若い男。

線の細い体には、白装束1枚のみを纏っている。


「…まさか呪縛が解けるとは、私も思わなかった…」


《彼》は自分の両手に視線を落とし、戸惑いながらも呟いた。


「恒靖…さん?」


尚人が恐る恐る尋ねると、目の前の青年は小さく頷き互いを見つめる。


人鬼はこの世に未練と恨みを残したものの姿……流星の言葉が尚人の脳裏に蘇った。


「もう誰にもその名を呼んではもらえないと思っていた」

「………」

「正恵の言っていた事は、こういう事だったのだな…」


遠い日々に思いを馳せるような、優しい声。


そして寂しい声。


「君には長い事、私の事で迷惑をかけてしまったね…すまない、尚人」

「えっ…どうして、僕の名前を!?」


慌てふためく尚人を見て、恒靖はふっと笑った。