月隠れの庭

「この日がくるのを、待っていたよ。僕はずっとお前の事ばかり考えてきた。あの日からずっと…忘れた事など1度もない…………」

真っ直ぐな瞳を向けると、顔に触れる寸前の大きな手が止まった。


《そうやって常に誰かに思われるというのは心地よいものだな》


「?」


寂しさの混じる言葉。

「誰かに思われる事が…心地いい?」

考えもしなかった答えに、彼は戸惑った。


《ああ、心地よい》


「…生きている時は」


《………違ったな…》


小さく答える。

その言葉を聞いた瞬間、尚人の目に映る鬼は恐ろしい姿などではなく、寂しげな色を放つ人の魂へと変わった。


(そうだ、この人だって自ら望んで鬼になったんじゃない…こうなるまでに、必ず理由は存在するんだ…)


人鬼はこの世に未練を残した者の姿。

悲しい程に病んだ思いが、この世界に魂を引き留めて離さない。


「もし…これで会うのが最後なら、僕にその記憶を話してくれないかな」

その言葉に一瞬、鬼が纏う空気がふわりと暖かくなった。