月隠れの庭

闇に紛れ、1度もその形すら見た事のなかった尚人は、ハッとする。

赤い皮膚、鋭い目、大きな口、そこから覗く牙。

ハッキリと捉える事が出来るのは、彼自身もまた鬼の目を持っているから。


《さぁ、その玩具を外せ…》


人鬼の大きな手が、尚人の指をさす。

それは流星がくれた法具『明王』の指輪だった。

外せばどうなるか分からない…けれど、ここは鬼の言葉に従うしかない。


今回は言われるまま、5個全ての指輪を抜き取ると、床に捨てた。


チリンと音を立て、それらはどこかへ転がっていく。

強い障気と霊気が一気に襲いかかってきて、一瞬眩暈がした。


《前回と違い、抗わぬのだな》


「お前を怖いとは思わないから」


《…どういう心境の変化だ?》


人鬼は喉の奥で笑った。

「お前は僕に害を為さないと分かっているから」


《くく…随分と買い被られたものよ》


「買い被っている訳じゃない。お前は正恵さんとの約束を守って、ここにいるんだ…」

『正恵』と言う名を聞いて、鬼を取り巻く空気が変わった事を尚人は見逃さなかった。