月隠れの庭

尚人はごくりと唾を飲んだ。

ゆっくりと、ゆっくりと視線を巡らせ………それから背後を振り返る。


大きな影。


薄闇で光る1つの光。

「人鬼……」

ひりひりと渇く喉の奥から、彼は声を絞りだした。


《ようやく会えたな……待ちくたびれたぞ》


鬼は低い声音で静かに尚人を迎える。

「どうして昼間に現れなかったんだ」


《どうして?》


「僕は約束を守ってここへ来たのに」


《我はずっとここにいた》


「嘘…ずっとだなんて、嘘だ」

尚人は些細なことに自分でもこだわっていると思いながらも、鬼を責める。

本当はそんな事を言いたいんじゃない。

もっともっと大切な事がたくさんあって、聞きたいこと知りたいことが山ほどあるというのに、口をついて出てきた言葉はどうでもいいこと、だった。


《お前は本当に興味深い人間だ…》


散乱していた箱に腰掛けていた鬼は、ゆらりと立ち上がる。

一歩前へ出たその姿が、暗がりから出てきて姿を見せた。