ラブソングは舞台の上で


晴海はどんどん私の知らない地域へ進んで行く。

繁華街を抜けると、急に街灯が少なくなって、町中だけどちょっと怖い。

暗いし寒いし、本当にこの先に劇団の稽古場なんてあるのか、不安になる。

まさかこの男に騙されているのでは……。

着いた途端、怪しい男たちに囲まれて、変なものを売り付けられたりして。

ポケットに突っ込んでいる手は、不安と緊張でどんどん冷えていった。

「着いた。ここだよ」

晴海が指をさしたのは、「カメラ&フォト高田」という看板だ。

「カメラ屋さん?」

まさか、高いカメラを売り付けられるのでは?

「そう。ここの店主がエボリューションのプロデューサーで、演出家なんだ。2階が稽古場になってるんだよ」

ああ、なんだ、そういうこと。

1階の店舗はシャッターが閉められ「定休日」の表示がされている。

2階には明かりが点いており、人が行き来しているのが、窓から見える。

「行こうか、マイヒロイン」

「うん」

私は晴海に続いて、足音がやけに響く鉄製の階段を上った。

ベージュ色の扉が、晴海によって開かれる。

扉はカチャっと、思ったより軽い音がした。

「お疲れーっす!」