ラブソングは舞台の上で


バカにしたように笑った晴海に、私は再び拳を握って見せた。

すると彼は慌てて握った拳を掴む。

「違う違う! メイク落とさずに眠って顔ドロドロだって意味だよ。頭も寝癖で爆発してるし、シャワー貸すから女子力取り戻して帰れば?」

確かに、目元がパリパリするし、顔全体が重い。

鏡は見ていないが、アイラインが滲んで、とんでもない顔をしているだろうことは想像がつく。

髪だって、このまま出掛けるのは恥ずかしい状態に違いない。

シャワーを浴びられるのであれば、是非とも浴びたい。

……でも。

「あんたのシャワーなんか借りたらどうなるかわかんないじゃん」

「うちは脱衣所に鍵が付いてるし、洗いたてのタオルもあるし、洗面台の下の棚にメイク落しと使い捨て歯ブラシもあるから、自由に使っていいよ」

ずいぶん準備がいい部屋だな。

「……ほんと? 入ってきたりしない?」

「しないしない。もうパンチは懲り懲りっす」

だったら……お言葉に甘えようかな。

私は手にしたコートを晴海に投げつけ、まだ湿気と石けんの香りが残る浴室へと向かった。