「うっ……! ゲホッ、ゲホッ」
途端に右へ転がり、苦しそうに咳き込み、うずくまる晴海。
私はベッドから出て彼から離れた。
こいつの近くにいると危険だ。
「明日香……レバーブローは……ナシだろ……」
「呼び捨てにするな年下のくせに!」
上半身が裸だったから、より正確に気持ちよくヒットすることができた。
何ならもう一発お見舞いしてやろうか。
次はストマックに決めてやる。
私は再び拳を握りしめた。
察した晴海は慌てて手を出し、防御の態勢を取る。
「ストップ! ストップ! もうやんねーから落ち着いて!」
涙目になっている晴海の顔を見て、私は拳を下ろした。
「女をナメんな」
護身のために、基本的な急所くらいは心得ている。
「いってー。冗談だよ。マジで殴ることないだろ。しかもレバーって……」
「マジで触るからでしょ」
「本気だってこと見せたかったんだよ」
「知るか! 帰る!」
私はテーブルの横に放られているコートを手に取り、バッグを探す。
バッグはベッドの横に転がっていた。
それを取ろうとベッドに近付くと、苦痛から復活した晴海が私の手首を掴んだ。
「待って」
「何よ」
「明日香」
「年下のくせに呼び捨てにしないでってば」
「それにしても……酷い顔だよ」



