「なんでもないの」




おまえは、綺麗な顔をはっと強ばらせ、涙を隠そうとそっぽを向いた。



似合わない仕草だった。

愛らしいとすら言えるその顔には似合わない気の強さだった。



「捨て犬?」

「さわらないで!」



その仔犬に手を伸ばした俺の服の裾を、おまえは、ぎゅっとひっぱった。



「あなた、その犬、飼ってあげられるの?」

「え?」



眉を潜めた俺に、おまえは、厳しい表情で詰め寄った。



「飼えもしないのに、手を出したら、かわいそうでしょう」



おまえは、泣きはらした目で、俺をキッと睨んだ。