遠目にしか見たことがない人。

だから、話しかけたかった。

そんな俺にチャンスが訪れたのは、ある夏の終わる頃──






「あれ?」

「あ……」

その日は、借りすぎた本を置いていこうと、教室に立ち寄っただけだったけど。

「竹島くん…?」

そこには、彼女の姿があった。

もう下校時間になる。そんなギリギリまでいつもここにいたのか、と思った。

心地よく響くソプラノに、俺の鼓動が一気に高鳴った。

「俺のこと、知ってるんだ?」

「う、うん……。クラスメートだし…」

「そっか」

なんでもないという風に呟いた。

動揺する心を落ち着かせるように。

ふと目に入ったノートに、いつか聞きたいと思っていたことを聞いてみた。

「何か描いてたの?」

「うん」