「親は?」



桐生くんの背中の上で揺られていた時間はあっという間。



すぐに見慣れた家の前まで来ていた。



「仕事…」



いつの間にか自分が単語しか話せなくなっているのに気がついて、また熱が上がっていることを知らせる。



「鍵はどこだ?」



「内側の、ポケットに…」



お邪魔しますと桐生くんは私を乗せたまま家に入る。



「沢城さんの部屋は?」



「2階の奥」



正確に伝えられないけど“Konoha”と書かれたプレートがドアにかかっているはずだからわかると思う。



私の部屋に入る男の子は桐生くんが初めて。



私をそっとベッドに寝かせた桐生くんは



「キッチン借りるな」



と下へ降りて行ってしまった。



その途端に寂しさを感じる。



桐生くんに、どこにも行かないで……そう言いたくなる。



「元気になれよ…」



そのまま私は、しばらくして桐生くんが戻ってきたのにも気が付かずに、夢の中へと落ちていた。