「………お前………沙霧と泡雪の子か」





疾風の呟きを、赤ん坊はぼんやりと聞いていた。




疾風の目に涙が膨れ上がる。





「………そうか。そうか………。

あいつらは、お前を遺してくれたんだな」





嗚咽をもらしながら、疾風は赤ん坊を抱き上げた。




小さく頼りない身体を、泡雪の着物と蓑で包み込み、疾風は優しく抱きしめる。






「なにも心配いらないぞ。

俺たちがいるからな。


絶対に、お前を幸せにしてやる」





疾風は赤ん坊を連れて村に戻った。




群雲はそろそろ乳離れを始めていたので、玉梓がその子に乳を飲ませて、群雲も共に世話をするようになった。





「ねえ、疾風。

この子の名前はどうするの?」





「そうだな………この子を見つけたとき、まるで雪の中で周りを照らす灯火のようだったから………」





灯(アカリ)という名を与えられた紅髪の赤子は、父と母の残酷な運命など知るよしもなく、すくすくと育った。