「こ、ここは…」



目の前に広がるのは、花と緑に囲まれ、数年前のあの悪夢の舞台となった、白亜の邸宅。

あたしは思わず言葉を失ってしまった。


そしてる、数年前にここで起こったことを思い出した。

魔力がなくなるまで戦った、

あの死闘を–––––




「何突っ立ってんだ。行くぞ」


その景色の中に奴が現れ、あたしの手を取る。

大きな優しく温かい、大好きな手。

いつも安心をもたらしてくれる手だ。


しかし、


「ま、待って!」


奴はあたしに比べると、大きな歩幅とスピードで歩く。そのためあたしは追いつくために小走りをしなければならない。

全く、彼女のこともちょっとは考えてよね!


今日は、今日だけは、翔太に可愛いと思ってほしい。


何てったって、久しぶりに会えるんだもん。

だから、かなり頑張ってオシャレをしてみたんだ。恥を捨てて、ワンピースなんて着てしまった。


おまけに頑張ってヒールのある靴を履いて来たというのに!こんな高いヒールのパンプスなんて歩きなれていないけど、それでも履いて来たというのに!


「もう、速いよ!」

あたしが口を尖らせる。

ヒールのある靴を履いても翔太を見上げる形になってしまう。どれだけ長身なんだ。

「お前が遅いだけだ」

声は比較的穏やかだが、
こちらをちらりとも見ることない。

お・ま・け・に!


無表情。

無愛想。

仏頂面。


…これが彼女に対する接し方ですか?