「本気なの?」

あたしは北斗の目を見つめる。

「本気」

北斗のダークチェリーに似た赤い瞳には揺らぎがなかった。

「どうして…」

どうして、そんなに危険なことに挑戦したがるの?

「北斗、よく考え直して。人間界に行く、だなんて、簡単にそんなことを言ってはいけないわ。

よくよく、考えてみて? ちょっとそこまで旅行、とかではないのよ? 人間界よ? すごくすごく危険なのよ? もしかしたら、もう二度と、ここに帰ってこれなくなるかもしれないのよ?

そのこともよく考えて。やっぱり行かないって言ったっていいのよ。お願い、考え直して」

北斗と七星は、いくら雅人と美玲の子供で、十二分に強いとはいえ、高校生なんだ。まだ、若い。若すぎる。

大人でさえ危険な、この仕事をこなしていることもすごく心配に思うのに、人間界に行くなんて言いだすとは。


北斗は静かにあたしの話を聞いていた。

元々口数が少なくて、穏やかな性格の子だけれど、いつにもまして静かだった。

「…分かってる。考え、変えない」

「どうして…」


「由良姐、困ってるから」


凛とした、芯のある声だった。


「由良姐、困ってる。だから、助けたい」


その言葉に、その声に、強い意志が籠っていた。


「気持ちは嬉しいよ。でもね、だからって、北斗がわざわざ言いだす必要はないのよ?」

まだ高校生なのに。

あたしなんかのために、自分を犠牲になるような行為をしてほしくない。

彼らには、自由でいてほしい。

彼らには、まだ何にだってなれる可能性が広がっているのだから。


「それでも。僕、由良姐、困る、嫌。僕にできること、全部、する」

「どうして…」

「……ぼ、僕、ゆ、由良姐……」

「あー!」

その時隣にいた雅人が叫んだ。