「天使、ですか?」

依頼主は頷いた。


"ガーネット"の当主になって約15年。

今までいろんな依頼をこなしてきたけれど、こんな依頼は初めてだ。

人間界に落ちた天使を天界に還してほしい、だなんて。


「なぜ、ですか?」

問いかけると、依頼主は答えた。

争いを避けるために、と。

そして依頼主は机の上に金貨が入っているらしき袋を置くと、出て行ってしまった。

「困ったなぁ…」

依頼主が誰だか分からない。

ただ、"生きていないモノ"であることは確かなんだけど。

「誰なんだろう…」

なんだか優しそうな方だったような気もするんだけど…

それに依頼を引き受けるなんて言ってないのに、報酬の金貨をもらってしまった。

これじゃ、依頼をこなさないわけにはいかない。

ていうか、人間界ってパラレルワールド、だよね?

行く方法はないわけではないけれど、ちゃんと帰れるかどうかは分からない。その魔法使いの魔力の大きさにもよるから。

当主としてあたしが行くべきなのだろうか。

隊員達をこんな危険な目に合わせたくはない。

でも、あたしが、当主が死ぬわけにはいかない。

もし命を落としたりしたら、"ガーネット"が大混乱に陥る。いや、"ガーネット"だけじゃない。

『"ガーネット"の当主』の死は、
魔物退治屋界全体に衝撃が走るだろう。

"ガーネット"内で権力闘争なんて起こらないとは思うけれど、起こらないとは言い切れない。

それに、混乱に乗じて他の魔物退治屋が統率権を得ようと攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

魔物退治屋は、一般の人よりも魔法を扱うのが上手く、魔力だって当然大きい。

そんな魔法使い達が争ったら、この町は、この国は、この世界は、

火の海に、なってしまう。


それだけは避けたい。避けなければならない。

でも、一体誰を行かせたらいいの。

「よぉ、由良。難しい顔してんな」

入ってきたのは、"ガーネット"の隊員服を来た男性。

「雅人…」

大人になっても笑顔が変わらない、星の使い手、古城雅人だった。