振り返った汀の視界いっぱいに、冷ややかな面持ちの灯が立っている。







「……………お前は。


この期に及んで、何を能天気なことをくっちゃべっているんだ?」







灯の怒りは最もである。



しかし、汀にも言い分があった。







「ちょっと、蘇芳丸!!


せっかくの私の作戦を無駄にしないで!」







「………はあ?」







汀は青瑞の姫に聞こえないように小声で灯に語りかける。







「あのね。


青瑞の姫はどうやら、私たちが仲良くしてるのが気に入らないみたいだったのよ。


だから、私と蘇芳丸はただの飼い主と犬の関係なんだって分かってもらえれば、私を泉に引き込もうとするのをやめてくれるんじゃないか、って思って」






「…………それはいいが。


なぜ俺が犬でお前が飼い主なんだ。


どちらかといえば俺がお前の面倒を見ているだろうが」






「あら、それは言葉の綾ってもんよ」






「綾も錦もあるか!


俺は犬じゃなくて狐だと何度言えば」






「んま、似たようなもんじゃない」






「お前の目は節穴か!!」







『……………夫婦漫才か』







青瑞の姫が苛立たしげに呟いた。