桃の花を溺れるほどに愛してる

「桃花さん!今日も1日、学校生活、お疲れ様です!」


 え~っと、声もあからさまに不機嫌な声音に調整して、それから……ぶっきらぼうに言う、っと……。


「うっさいな。いいから早く車を出して?」

「ああっ、すみません!今日“も”早く家に帰りたい気分なんですね!分かりましたっ!」


 ……ホント、毎日毎日、よくも笑顔で対応できるな、この人は。

 そろそろ怒るなり泣くなり、はたまたフッてくれてもいいと思うんだけど……。

 ほら、せっかく春人が毎日送り迎えをしてくれているのに、「ありがとう」を言うどころか、こんなふうに不機嫌そうにしちゃってさぁ……。

 自分で言うのもアレだけど、これぞ嫌われる女……だよね?ちゃんと演じること、できているよね?

 春人、ごめんね?私にはあなたは合わなかった……ただ、それだけのことなんだ。春人のことを好きになってあげられなくて、ごめんね……。


「……桃花さん、」

「……なに?言うなら早くして。私、今、機嫌が悪いんだから」

「すみません……。あのですね、桃花さん。僕、ずっと考えていたんですけど……」

「なによ?」


 急かすように、私が不機嫌オーラ丸出しで言うと、春人はいつもと同じ優しい口調で、その言葉を放ったんだ。



「――僕たち、少しの間、距離を置きましょうか」



 ……えっ?

 それは望んでいた結末に一歩近付いたわけで、喜ばしいことに変わりはないのに……どうしてだろう?

 無性に胸の辺りが、痛むんだ。