桃の花を溺れるほどに愛してる

 飲み物を購入した私達は、すぐに“キミのとなり”が上映するということで、早速席へと移動した。

 まぁ……“飲み物を購入した私達”とはいっても、実際に2人分の飲み物を購入したのは春人なのだけど……。

 今日、お金はずっと春人に払ってもらってばっかりで、申し訳なく思うどころじゃないよ……。何か恩返しの1つや2つはしてあげないと、気持ち的に気が済まないや。


「そろそろ始まるみたいですよ」

「うっ、うん」


 春人がそう言うや否や、部屋の明かりは暗くなっていって、やがて、消えた。

 新作の映画の予告がいくつか放映されていき、そして、ついに本編が始まったのだった。


「ミキちゃん。大好きだよ」


 始まった映画の主人公であろう男性役の人が、“ミキちゃん”と呼ばれるヒロインであろう女性役の人に向かってそう演技する。

 話の展開といいBGMといい、予想通り、ほのぼのとした恋愛もののストーリーのよう――だと、途中までは思っていた。――そう、途中までは。


「最近、ストーカーの被害に遭っているのよ」

「ミキちゃんを脅かすなんて、許せない。そんなヤツ、すぐに僕が退治してあげる」

「今日もまた無言電話があったの。しかも何度も……。怖いわ」


 ストーカー……か。今この段階では、春人しか思い浮かばないや。