桃の花を溺れるほどに愛してる

 いや、だからといって、家の中で長時間も見つめ合いながら同じ空気を吸い続けるのもどうかと思うけど……。

 ……ん?見つめ合う?……いやいや、誰も見つめ合うとまでは言っていないから。落ち着け、私。


「私が言っているのは映画!え・い・が!観たい映画を聞いてるの!」

「ああ!すみませんっ!僕は……桃花さんが観たいものを、一緒に観ようと思ったんですけど……」


 ……聞いた私がバカだったわ。


「……じゃあ、あれ、観る」


 何を観ようか悩んだ末、私はまだ今日の分のチケットが売られている、“キミのとなり”という恋愛ものの映画に向かって指を差した。

 どういうストーリーなのかイマイチ分からないけど、タイトルからしてほのぼのとした雰囲気の恋愛もののような気がした。

 主人公とヒロインを末永く見守ってあげたくなるような……そんな感じのヤツ。


「分かりました!じゃあ、チケットを2枚、買ってきますね!桃花さんはここで待っていてくださいっ」

「えぇ?!私も行くよ?」

「桃花さんに変に手をわずらわせたくないんです。すぐに戻ってきますから」

「は?いや、そんなこと、別に気にしなくても……って、行っちゃった」


 チケット売り場の方に向かって走り去る春人の後ろ姿を見ながら、私は小さく溜め息を吐いた。

 仕方ない、そこら辺に置かれているイスに腰掛けながら、春人の帰りを待とう。