桃の花を溺れるほどに愛してる

「すみません、すみません、すみません。お願いします、嫌わないでください。愛しています、愛しています、愛していま…」

「わぁー!わぁー!そう何度も言わなくても分かるわよ!恥ずかしい!」


 仮にもここは館内なのだから、大勢の人がそこら辺にいるわけで……。

 春人の声を聴いた人達は、まるで妙なものを見るような目付きで私達を見る。

 ……ん?今のってもしかして私が大きな声を出したからか?……うん、気にしないでおこう。


「とっ、とにかく!面白そうなものを観るわよ!えっと、今、上映している映画は……」


 チケット売り場の頭上に設置されている、映画の案内板に目をやる。

 いかにも恋愛ものだって主張しているタイトルもあるし、あからさまにホラーものだって主張しているタイトルもあるし、タイトルだけじゃどんな内容なのか分からないものもある。

 私は別に恋愛ものでもホラーものでも、はたまたミステリーものやギャグものでも大丈夫……というか、面白ければそれでいいと思っているクチなのだけど、うーん、何を観ようかな……?


「春人は観たいもの、ないの?」

「僕はずっと、桃花さんを見ていたいです」

「……」


 私を見ていたいと言うのなら、何故に映画館をチョイスした?!

 約数時間、真っ暗闇の中にいるっていうのに……。バカなの?うん、バカなんだわ、きっと。