桃の花を溺れるほどに愛してる

 何気ない会話をしながら料理を食べ進めていき、やがて、完食。

 じゃあ、そろそろ映画館の方に向かおうか――と、席を立って、会計を済ませようとカバンから財布を取り出そうとするが……。


「はい。ちょうどお預かりします。こちらがレシートになります。ありがとうございました」


 春人の行動の早さにビックリした。気が付いた時には、春人がすでに会計を済ませていて……私はぽかんとする。


「え……割り勘……。私、自分の分は自分で払おうと思っていたのに」

「え?ああ、気にしないでください。桃花さんにお金を払わせるなんて、僕には出来ませんから」


 とは、言われても……。

 さっきのブレスレットのこともあり、自分の食事ぐらいは自分で払いたかったのだけど……にこりと微笑む春人を見ていたら、何も言い返せなくなってしまった。

 申し訳ないとは思いつつ、私は一応、お礼の言葉を口にした。


「また来てくださいね~、かわうぃ~レディちゃん♪」


 店を出る間際、司さんが私に対してそう言っているのが聞こえていると思った刹那、桐生さんが「またお前は……」と司さんの頭を叩いているのが見えた。

 私は思わず苦笑いを浮かべたけど、ここの料理は美味しかったし、また来れたら来たいなと思った。

 オーナーはニコニコと微笑んでいていい人そうだし、店員さんのみんな――司さんはチャラいけど、優しくて気さくな人……っぽいしね。