桃の花を溺れるほどに愛してる

「ん?――ああ、アレね」


 桐生さんとその側にいる女性に気が付いたのか、そちらを向いて、スッと目を細めた。

 ……あれ?なんか、司さんの雰囲気が変わった?悲しそうというか……苦しそうというか……。


「そっ、アレが桐生センパイの婚約者の篠原里桜ちゃん」

「あの、司さ――」

「――あと1歩、出会うのが早かったら、俺のモノにしていたんだけどね」


 ああ、やっぱり……。

 司さんは、桐生さんの婚約者である篠原さんのこと……好きなんだ。

 ……好きな人がいるのにも関わらず、なりふり構わず女の子たちに声をかけているのは……悲しさや苦しさを紛らわすため……なのかな?

 そう考えたら司さんって根っからのチャラ男じゃないというか、かわいそうって言ったら怒られそうだけど、でも、なんか、そんな気がしたんだ……。


「すみません。注文、いいですか?」

「あっ、彼氏さん!どーぞ、どーぞ★」


 テヘッ★と自分の頭を軽く小突いたのち、司さんは春人と向き合った。


「Aセットが2つ、ミックス・オ・レが1つ、コーヒーが1つ、いただけますか?」

「Aセットが2つ、ミックス・オ・レが1つ、コーヒーが1つ……っすね!かしこまりました~!」


 注文を聞き終えた司さんは、そのまま厨房の奥へと消えていった。