桃の花を溺れるほどに愛してる

 春人もすぐに立ち直し、服に付着した砂埃を手ではらった。私も一応、自分の服に砂埃が付着していないか、確認を済ませる。……どうやら大丈夫のようだ。


「あの、大丈夫ですか?」


 店の自動ドアが開き、中から先程と会話をした店員さんが姿を現した。

 ……って、私達、アクセサリーショップのすぐ目の前で倒れたんだ。

 私と春人のこと、ぜんぶ見られていたのかな……?もしもそうなら、ちょっと恥ずかしい、かも……。


「はい、大丈夫です。ご心配の方、ありがとうございます」


 にこりと微笑む春人を見た店員さんの顔が、少し赤くなった……ような気がした。

 しかし、すぐに私の方を向き、「あら?」という表情を浮かべる。


「あなたは先程のお客様の……」

「あっ、あの、春人……彼が、ブレスレットを買うってきかなくて……」


 3万円はするものだし、次期・院長で金持ちなのだとしても、やっぱり買ってもらうのは悪いような……と、ちらりと春人の方を盗み見たが、春人は買う気満々のようだ。

 これは……私が何を言っても無駄で、何がなんでもブレスレットを買うつもりなんだろうな。

 仮に強引に買うのをやめさせたとしても、駐車場に車を停めてここまでやって来たわけだし……残念ながら、私に春人を引き止めるだけの勇気はない。