桃の花を溺れるほどに愛してる

「1つにしぼって。何も今日1日にぜんぶを回らなくてもいいじゃない」


 私の言葉に、春人はハッとした表情を浮かべた。


「そうですよね!僕ったら桃花さんといるのが嬉しくて、つい……。じゃあ、映画館に行きましょう!」


 えぇー……、確かに1つにしぼってとは言ったけどさ、それ、私が春人とどこかに遊びに行く前提なわけ?まぁ、提案した手前、別にいいけどさぁ。

 ……それに、ほら。9時からずっとここで待っててくれたんだろうし、ちょこっとだけなら付き合ってあげてもいいかなぁ、なんて。

 勘違いしないでよね?!仕方なく遊びに付き合ってあげるんだからね?!


「分かった。行けばいいんでしょ、行けば」


 春人の赤い車の反対側に回り、助手席のドアを開けて乗り込んだ。

 バンッと大きな音をたててちゃんと閉め、シートベルトをしめる。

 ちらっと春人の方を見やれば、嬉しそうに顔を緩めていた。それに気が付いたのか、春人がこちらを向いたので、慌てて目をそらす。


「なっ、何見てんのよ。さっさと行けば?」

「すみません、桃花さんがかわいくて、思わず……。それじゃあ、行きましょうか」


 私がかっ……かかか、かわっ、かわいいっ?!コヤツ、何さらりと言っちゃってるの……?!