桃の花を溺れるほどに愛してる

 うわ、傷口がパックリしてる……けど、思っていたよりは酷くない。この傷口、案外浅いのかな。

 春人が抜いたナイフをちらりと見たら、付着している血の量はそこまで多くなかった。

 よかった。本当に傷口は浅かったんだ。浅くてよかった……。

 私は安堵の息を漏らしてから、ガーゼで血を拭き取る。すると、ガーゼが一瞬で赤く染まったことに、声には出さないが驚く。

 まぁ、そうだよね。いくら傷口が浅いからって、怪我したことには変わりないんだもの……。

 ガーゼ、多めに持って来ていてよかった。

 新しいガーゼで何度か血を拭き取ったのち、また新しいガーゼを傷口に当ててから、包帯を巻いていく。巻いて、いく。巻いて……。


「……う」


 巻け、ない……。

 いや、正確には巻きづらい。

 早く傷口を手当しないと!っていうことで頭がいっぱいだったから、気にもしなかったけど、……大人だからだろうか?意外と春人の身体ってしっかりしているというか。

 体格的に包帯を巻く手がうまく回らない……ことは無いけど、巻きづらい。

 ……カッコイイな、なんて。

 ……考えてない、考えてないんだから!


「桃花さん?」

「ひゃいっ?!」


 んもう!春人が急に話し掛けて来るから、ビックリして変な声を出してしまったじゃないか!