桃の花を溺れるほどに愛してる

「えっと……ガーゼを当てて包帯を巻くにしても、これ……ナイフ、抜かなきゃダメだよね」


 まさか、ナイフが刺さっているままガーゼを当てて、包帯を巻くわけにはいかない。


「僕が抜きますから、桃花さんは違う方向を向いていてください」

「うっ、うん……」


 身体から引き抜かれるナイフ……なんて、視覚的にグロテスクな状況を見せないようにと、春人なりの気遣いなのだろう。ここは素直に甘えておこう。

 言われた通りに春人を視界から外すと、春人の苦しそうな声と、ナイフが引き抜かれているであろう、なんとも生々しい音が聴こえた。


「……抜けた?大丈夫?」

「はい、なんとか……。すみません、持って来てもらったガーゼと包帯、貸してもらえますか」

「えっ?!1人で大丈夫なの?!」


 いくら病院で働いていたり、医療関係に強いからって、1人で背中の傷を処置するのは難しいんじゃ……?


「ははは。いつの間にか出来るようになっていました」

「いや、笑い事じゃないでしょ」


 それほど昔から怪我の回数が多かったのかな……。それってやっぱり、私のせいでもある……?


「……。私がやる!怪我人は大人しくしてなさいよね!」

「えっ?!いっ、いいですよ!血塗れですよっ?!グチャグチャですよっ?!」

「いいから!ほら、さっさと背中を見せなさいっ!」


 私が強めに言うと、春人は申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、背中を見せてくれた。