桃の花を溺れるほどに愛してる

「やっぱり、使うのはちょっと躊躇われますね。かなり古いものでしょうし」

「……ここから春人の病院に行くまで、どれくらい掛かりそう?」

「聖くんが警察や病院に連絡してくれているでしょうけど……山道のことを考えると、30分から1時間くらいでしょうか」


 山道っ?!この廃病院って、山の中にあるのっ?!


「それまでずっと、ナイフが刺さったままでいるの?!絶対に危険だって!私、包帯を探してくる!」

「あっ、待ってください……!」


 春人から離れ、部屋から出ようとした瞬間、腕をぎゅっと掴まれる。


「何よっ?」

「行くなら、僕も一緒に……」

「アンタはすごい傷だらけなんだから、ここから動いちゃダメ!」

「ですが……」


 まさか、寂しいとか?……いや、そんなわけないか。考えられるとしたら……単独は危険だから僕も一緒に行く、とか?

 でも、その怪我は私のせいで出来たものなんだし、一緒に行動したら怪我が悪化するかもしれないし……。


「すぐに戻って来るから!」


 春人を置いて、部屋から出ようとした瞬間……嫌でも目につく、地面にのびている榊先輩の姿。

 クリーンヒットした手応え……いや、この場合だと足応え?があったのだから、しばらくは起きないと思うけど……一応、身動きが出来ないように縛っておいた方がいいのかな?

 榊先輩には悪いけど、好き勝手に動き回られるのは困るっていうか……今度こそ危険な目に遭いそうだし。