桃の花を溺れるほどに愛してる

 春人の想いに応えたくて、両手を彼の腰に回した瞬間、固いモノに手が触れ……って、あああっ?!


「痛っ……」


 これ、なっ、ななな、ナイフ……!榊先輩に刺されたナイフっ!


「ごっ、ごめん!背中に刺さっていること、忘れてた……」


 焼き切れた私の思考回路は、血で濡れている春人の背中を見て、一瞬で元通りになった。

 私をかばってくれたから、刺さっちゃったんだもの……。気にしていられないワケがない。


「いえ、平気です……」

「でも……!このナイフ、抜いたらダメなの?見ていて痛々しいというか……。また服を破って巻いて処置をする、とか。……私のせいなのは、分かっているんだけど」

「桃花さんを傷付けさせないために、僕が勝手にやったことなんですから、どうか自分を責めないでください」

「……」

「ここはもともと病院だった建物なので、また服を破かなくても包帯がありそうなんですが……」


 あっ、ここ、病院だったんだ。

 言われてみれば、部屋がそれらしい作りをしている……ような気がする。

 かなり前に廃墟になったせいか、壁とか床がボロボロのせいでちゃんとした断定が出来ないけど。