桃の花を溺れるほどに愛してる

「は?意味が分からないんだけど?」

「意味が分からないのはこっち――」


 ――パシンッ!

 言い返そうとした瞬間、榊先輩の平手打ちによってそれが叶うことはなかった。

 まさか榊先輩に頬を平手打ちされるとは思ってもいなくて、言葉を失う。


「黙れ。誰が喋ることを許可した?今喋っていいのは俺。お前は黙っていろ」


 冷たい声に、身体がゾクリとした。

 しかし、すぐに悲しそうな顔をした榊先輩は、申し訳なさそうに言う。


「ああっ、ごめんね。桃花ちゃん。思わず叩いてしまって……。でも、君が悪いんだからね?俺が喋っていいって言っていないのに喋るから……。悪い子にはまた口を縛っちゃうからね?」


 ……なんだ、この人。本当に表情をコロコロと変える人だな。

 自分の表情を自在に操るようにコロコロと変える榊先輩に、私の心は恐怖でいっぱいになった。

 許可もなしに勝手に喋ったら、また叩かれるんだろうか。それまでこの息苦しい部屋の中で黙っていろと?!なにそれ、そんなの、気が狂いそうになる……!

 誰かの助けを願ったところで、私ははたと気付く。

 ここ、どう見ても廃墟の建物……だよね。

 ――廃墟の建物、私の家の近所にあったっけ?