桃の花を溺れるほどに愛してる

「あっ、天霧春人のことが心配?大丈夫、分かっているよ。君はあの異常者に従わされているんだもんね。あとでいっぱい懲らしめてあげるから、そこは心配しなくてもいいよ。だから安心して俺のもとにおいで?怖がらなくても大丈夫」


 私は別に春人に従わされて付き合っているわけでもないし、榊先輩のもとへ行くつもりもさらさら無い。


「そんなに震えちゃって……。そんなにも天霧からの仕打ちが怖いんだね。それも大丈夫。何があっても俺が桃花ちゃんを守るから。近付けさせないようにしてあげるから」


 春人じゃなくて、榊先輩が怖くて震えているんだけど……そんなこと、口が塞がれていて言えるわけもない。

 何も言えず、榊先輩から目をそらせずにいると……。


「あっ、もしかしてちゃんと口で、言葉で『榊先輩のモノになります』って言いたいのかな?そうだよね。やっぱり首を振ってうなずくだけじゃ不確かな部分もあるし、いいよ。その口を塞いでいる紐を解いてあげる。桃花ちゃんからの告白は、ちゃんと桃花ちゃんの口から聴きたいな」


 そう言った榊先輩は、私の口を塞いでいる紐に向かって手が伸びた。

 それを振り払うことも出来ず、ましてや逃げることも出来ない私は、されるがままで……。

 榊先輩の手によって解かれた紐は、するりと私の膝の上に落ちた。