桃の花を溺れるほどに愛してる

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「もう……よ。……がって。あとは俺が……から」


 ぼんやりとした意識の中、だれかの声が遠くに聴こえる。

 私はその声を聴きながら、ゆっくりと目を開けた……。


「?!」


 私は、椅子に座っていた。

 口は声を出せないようにか布が巻き付けられてあって、手と足は……ロープか何かで縛られているらしく、まったく動かせなかった。

 なんとかして解こうと身体をくねらせると、椅子がガタガタと揺れる。

 その音を聴いた“彼”は、にっこりと微笑みながらこちらを振り向いた。


「もう目が覚めたの?桃花ちゃん」


 “彼”は……榊先輩だった。

 みんなに見せるいつもの優しい笑顔を浮かべながらも、その裏側に見え隠れするおぞましい狂気に、私の身体はゾクリと震える。

 この状況はなんなのだろう?どうして私はこんな……廃病院みたいなところで縛られているのだろう?どうして、榊先輩が目の前にいるのだろう?どうして。どうして……。

 分からないことがいっぱいで、頭の中が真っ白になる。理解したくないことがいっぱいで、何も考えられなくなる。

 ただ1つだけ……分かることは、私がこんなことになってしまっている原因は、目の前にいる榊先輩だということだ。