桃の花を溺れるほどに愛してる

「壬に惚れないだなんて、頭のおかしな女だよな~」


 榊先輩の友人の1人がそう言った刹那、背中がゾクッとした。

 今、殺気に似た何かを肌で感じ取ったような気が……。


「おい」

「ん?」

「今度また彼女のことを頭おかしいって侮辱してみろ。……許さねぇから」


 自分の耳を疑った。

 今の……榊先輩の声?

 身が凍るような冷酷な声音に、私の身体はぶるりと震えた。

 でも、そういうふうに自分の友達に威嚇が出来るほど、“彼女”のことを想っているのだろうか?

 でもでも、その“彼女”が榊先輩に惚れたら捨てる……んだよね?

 “彼女”のことを大切に想っているのか、ただのオモチャとして見ているのか、よく分からないや……。


「悪かったって!そんなに睨まなくてもいいじゃん!で?どんな子?名前は?やっぱりかわいいの?」

「お前には関係ないだろ」

「えー!ヒント!ヒントだけでいいから!お願い!ちょうだい!」


 友達の必死の頼みに、榊先輩は渋々といった形で口を開けた。


「名前のイニシャルはT·K。もうそれ以上は何も言わない」


 イニシャルが、T·K?

 ……。

 ……。

 ……偶然でしょうか?

 私の名前のイニシャルも……T(とうか)·K(かみしろ)なんですけど……?