桃の花を溺れるほどに愛してる

 私に近付いて一緒に遊びに出掛けたのも、春人のことを非難したのも、私に対する今までの行動全部、私が榊先輩のことを惚れるための言動?

 もし、春人と別れて、榊先輩との交際をオーケーしていたら……私は有無を言わさず捨てられていた?

 そんなの、考えただけでもゾッとする。


「……っ」


 雪子ちゃんは唇を噛み締めたかと思うと、走ってその場を去っていった。

 走り去る間際、雪子ちゃんが泣いていたように見えたのは……きっと気のせいなんかじゃない。


「さっすが、壬!外道だねぇ~」

「俺は本音を言っただけ」

「だからそこが外道なんだって」


 下品に笑い合う榊先輩たちの声が聞こえる。

 まるで、泣いていた雪子ちゃんには目もくれていないような……そんな態度に、私はイライラした。


「んぁ?そういえば、壬。お前、この前、新しいターゲットを見付けたって言ってなかったっけ?」


 えっ?!たくさんの女の子たちを泣かせても尚、まだ懲りてないっていうの?!ますます最低だっ!


「おい。今は壬にその話はしない方が……」

「え?なんで?」

「だって……なぁ?振り向いてくれる気配が0だって落ち込んでるんだよ」

「マジで?!このご時世、壬に惚れていないヤツがいるの?!しかも振り向いてくれる気配が0%?!」