桃の花を溺れるほどに愛してる

「……春人?どうした、の?」


 私が問うよりも先に、春人は私の手首を掴んだままズンズンと歩きだす。

 何がなんだか分からないけど、春人が無言なのって怖い……。

 怒ってるの?それってまさか、聖くんが関係していたりするの、かな?

 ビクビクしながらも、引っ張れるがままに歩かされていると、春人は人通りの少ない道の裏路地に私を連れ込んだ。


「はる、と……?」


 さすがに、まったく人の気配がしない裏路地に連れ込まれるとなると、怖くて怖くて泣きそうになる。

 人目のつかないところに連れて来られるっていうことは、人目についたらマズいことを言ったり、するから……なんだろうから……。

 裏路地に連れて来られた私は、すぐに春人に壁に押しやられた。

 これっていわゆる、今流行りの“壁ドン”……っていうヤツ?

 まさか私がそれを体験するなんて思いもしなかったから、どう対応したらいいのかが分からず、目をキョロキョロと動かしてしまう。


「……あの。はる、と?」

「……」


 人の無言って、こんなにも怖いものだったんだ……?

 前髪と暗闇のせいで、春人の表情はさっぱり分からないから、余計に怖い。

 自分の心臓の音が、すぐ耳元で聴こえるような気がした。