桃の花を溺れるほどに愛してる

「ゴメン……。あっ!別に春人のことがカッコイイなんて思って、見とれていたワケじゃないんだからっ!」

「……ふふっ」

「?!」

「ありがとうございます」

「だっ、だから違うってば!」


 私は照れ隠しで否定するけれど、春人はすべてが分かっているのか、お礼の言葉を口にした。

 もーっ!だから違うってば!本当にカッコイイなんて思って見とれていたワケじゃないんだから!

 ……いや、カッコイイって思ったのは……本当のこと……だけどっ!


「あっ、ほら!桃花さん!学校、着きましたよ」

「え!……ホントだ」


 登校してきている周りの生徒たちは、「なんだ、この赤い車は……」や、または「また赤い車の送り迎えが始まった」と言いたげに、チラチラとこちらを見てきた。

 ……今までの送り迎えの時は、周りの生徒たちのことを気にする余裕がなかったけど、こうしてみんなを見ると、お金持ちのお嬢様になった気分……なんちゃって。

 それはさすがに買い被りすぎか。


「じゃあ、行ってくるね」

「勉強、がんばってください!」

「うん。アンタも気をつけて行きなさいよ」


 私にそう言ってもらえたことが嬉しいのかは分からないけど、春人は頬を染めながら嬉しそうに微笑んだ。

 私はそんな春人に手を振り、校内へと足を踏み入れる。

 校門をくぐって少しした瞬間、だれかが私の肩に手を置いた……かと思いきや、すぐに知っている声が聴こえた。


「やあ。おはよう、桃花ちゃん」


 榊先輩、だ……。