桃の花を溺れるほどに愛してる

 春人が目覚めて嬉しい半面、榊先輩と関わるなと言われて複雑な思いも半面……なんとも言えない気持ちのまま、私は春人に、あの赤い車で家まで送ってもらった。


「目覚めたばかりなんだから、今日は送ってもらわなくてもよかったのに……その、ありがとう」

「いえいえっ。桃花さんのためあらば、僕はどんなことでもしますよー」


 春人の体調を気遣って言ったのに、春人はにこりと微笑んでそう言った。

 ……「どんなことでもします」って、私が望むこと、なんでも?

 なんか、さすがにそれは申し訳ないし、気が引けるなぁ……。


「とにかく!体調のことも考えて、しばらくの間は家でゆっくりとしていること!分かった?!」


 私のせいでまた病院送りなのは困るし……やっぱり、はやく体調をととのえて元気になってほしいから。


「分かりました。それじゃあ、桃花さん。おやすみなさい」


 春人はにこりと微笑んで手を振る。私も手を振ると、春人は車を発進させて行ってしまった。

 車が見えなくなるまで見つめていたのち、私は家の中に入ったのだった。