桃の花を溺れるほどに愛してる

 パジャマから普段着に着替えた春人は、病室から出ていく準備をしていた。

 あっ……切ったっていう手首のところ、ちゃんと包帯を巻いている。結構深く切ったのかなぁ……。

 私はそっと、春人の手首を巻いている包帯に触れた。


「桃花さん……?」

「ごめんね……。私のせいだよね。私が春人を精神的に追い詰めてしまったの……ごめんなさい」

「……。桃花さんは何も悪くないですよ。これは、僕の心の弱さが招いた結果なんですから。だから、桃花さんは謝らないでください」


 春人は微笑みながら、私をあやすように頭をぽんぽんと撫でた。

 春人の手は、安心する。春人に撫でられると、安心するんだ。……こんなこと、なんか恥ずかしいから、絶対に口にはしてやらないけれど。


「――ところで、桃花さん」


 ふと、春人の雰囲気が変わったような気がした。

 それは、私が以前、映画館でナンパされていた時の春人の雰囲気と似ているような気がする。


「なに……?」

「1つ、聞いてもいいですか?」

「うっ、うん……?」


 なんだろう?

 春人、なんか怖い……。