桃の花を溺れるほどに愛してる

 また、適当に何かを食べて胃を満たしていたら、いつの間にか……時間は昼過ぎを指していた。

 僕は自分が注文した分のお金を払い、店をあとにしたのだった。


「あのー、鍵は出来ましたか?」


 再び鍵屋さんを訪ねると、先程にも会った店主のおじいさんが、手の平の大きさにも満たない箱を持って来た。

 パカッと開けたそこには、銀色に輝く1つの鍵……桃花さんの鍵が、入っていた。どうやら無事に完成したようだ。


「わぁっ!ありがとうございます……っ!」

「……悪いことには使うなよ」

「……っ?!」


 息を吐くようにさらりと言われたそれに、僕の思考は思わず停止した。


 気付いている……?これが僕の家の鍵じゃなく、桃花さんの家の鍵だって、気付いている……?

 でも、僕は悪いことはしていない。

 だれかの家の合い鍵を作ること自体は犯罪じゃないし、監視カメラや盗聴器を仕掛けるのだって、桃花さんのことを守って支えるためだ。

 だから……僕は、悪いことはしていない。


「料金、1000円な」

「……えっ。あっ、はい」


 おじいさんに言われた通りの金額を財布から差し出したあと、僕は作ってもらった鍵を片手に店を出た。


「作っていただき、ありがとうございました!」


 もちろん、礼を言うのを忘れずに。