桃の花を溺れるほどに愛してる

 それを見たおじいさんは一瞬だけ難しそうな顔をしたけれど、やがて差し出した粘土の型を受け取り、スッと僕に背を向けた。


「あの……?」

「昼過ぎにまた来い」


 それは、今から作るから、昼過ぎになったら取りに来いっていうことなのかな?


「今日の客はお前さんだけだからな。あっという間に作っちゃる」


 あはは……なんていったって、今日は朝一に来たわけだからね……。


「それじゃあ、昼過ぎにまた来ます」


 僕はおじいさんの背中にぺこりと頭を下げたあと、鍵屋さんをあとにした。

 うーん、思っていたよりも何も言われなかったし、聞かれなかったし……。いいのかな?このまま作ってもらっちゃって……。

 僕は近くの“碧の森”という喫茶店で時間を潰すことにした。初めて入る店だったけれど、中は静かで、とても落ち着くことの出来る店。

 店員はマスター1人だけのようだったけど、1人で店を切り盛りするのは大変じゃないのだろうか……?そのうちアルバイトさんでも雇うのかな?

 そんな疑問が浮かびながらも、いつかここで、桃花さんとランチが出来たらなぁ……という夢を思い浮かべていた。