桃の花を溺れるほどに愛してる

 院長室から出た僕の足は、迷わず、真っ直ぐに屋上へと向かっていた。

 その途中、桃花さんのいる病室の前をスッ……と、横切る。

 ……目を覚ました桃花さんは、僕に「だれ?」と尋ねて来ていたけれど、その時は目を覚まして間もなく、おまけに意識が朦朧としていたこともあって、きっと僕の顔なんてハッキリとは見ていないんだろう。

 「だれ?」なんて尋ねたことさえ、意識が曖昧だったために覚えていないんだろうなぁ……。

 今、「僕はここの院長の息子です、よろしくお願いします」なんて言って姿を現したところで、「いきなりなに?」って変な目で見られるのは目に見えている、よなぁ……。


 ――それなら、不自然なく僕らが接触できるその時がやってくるまで、いくらでも待とうじゃないか。

 その時がいつになるかは分からないけれど、その時がやってくるまでいくらでも待とうじゃないか。


 僕がそう決意をしている間に、病室の屋上にたどり着いた。街の景色がよく見える端の方に歩み寄る。

 ここで僕は桃花さんと出会った。僕からすれば、この屋上は何よりも神聖で……特別な場所。

 この場所がなければ、僕は桃花さんと出会うことは無かったんだろうから、そういう意味では本当に心の底から感謝している。

 僕と桃花さんを出会わせてくれて、本当にありがとうございます。