桃の花を溺れるほどに愛してる

「一応、ベッドから落ちて頭の打ち所が悪く、意識不明になり、約2ヶ月の間、眠っていたという話で通っている。彼女の両親にもこの話はした。どうするかは彼女の両親次第でもあり……春人、お前次第でもある」

「……えっ?」

「“大切な人”、なんだろう?」


 父さん……っ!


「どのような形で彼女を支えていくのかは、お前が決めろ。俺は何も言わん。……まさか、『記憶をなくした彼女はもう大切じゃない』――などと抜かすわけじゃあ無いだろう?」

「そりゃあ、もちろん……!桃花さんが僕のことを忘れてしまっていても、僕は桃花さんのことが大切です!この気持ちは何があっても変わりませんっ!」


 だって、桃花さんに僕を救ってくれたという記憶がなくても、僕が桃花さんに救われたのは本当のことなのだからっ!

 僕がそう断言すると、父さんはフフッ……と優しそうに微笑んだ。


「さすがは俺の息子だ」


 くしゃり。父さんは荒々しくも優しさのこもっている手つきで、僕の頭を乱暴に撫でた。


「父さん、ありがとう……!」

「……ああ」


 お礼を言われて照れ臭そうに笑った父さんを背に、僕は院長室をあとにした。