桃の花を溺れるほどに愛してる

「覚えている限りのことでいいから、答えてみなさい」


 父さんがそう尋ねると、桃花さんは覚えている限りのことを話した。


「私の名前は神代桃花。近くにある中学校の1年生の生徒。2人は私のお母さんとお父さんで……」


 身の回りのことや、勉強面などの基礎的なことは覚えているようだった。

 それなら、どうして、僕のことが分からなかったのか……。


「あれ?今日って、何月何日?」

「今日は6月11日だ」

「えっ?!私、約2ヶ月も意識不明だったわけ?!」


 ……約2ヶ月?

 桃花さんのその発言に、病室の中にいる3人は無言になった。

 お互いに顔を見合わせて、驚いていたりするのだろうか……?


「その辺りで覚えていることがあったら、言ってみなさい」

「はい。えっと……私、先輩に彼女がいるって分かったその日の夜、自分のベッドで寝て起きたら病院の中で……約2ヶ月分の記憶がありません」

「と……桃花。あっ、あなたは、寝ている最中にベッドから落ちて、意識不明の重態になったのよ」

「えっ!お母さん、それ、本当?!ベッドから落ちて意識不明とか……マヌケじゃん……私」


 ……桃花さんのお母さん、嘘をついた……?

 それに対して他の人が何も言わないということは、桃花さんが意識不明だった理由をそれで統一するつもりだからなのか?