桃の花を溺れるほどに愛してる

 ……今度……今日の放課後にでも、桃花さんにお礼を言わないと。

 こうなったのは、すべて桃花さんのおかげなんだから……。

 ――いつもと違って楽しい学校生活を終えたあと、僕は走って天霧総合病院の屋上へと向かった。

 ここでなら、桃花さんに会える気がしたんだ。ここでなら……。

 ……でも、桃花さんはいなかった。時間がどれだけ過ぎようとも、桃花さんはここにやっては来ない。

 太陽がどっぷりと沈んだ頃、バンッと勢いよく屋上の扉が開いて、反射的にそちらの方に振り返る。

 桃花さんがやって来てくれたのだと思ったから。

 でも……。


「春人!たった今、重症患者が運び込まれてきたんだ!人手が足りないから、ちょっとお前、手伝え!」


 それは、僕の父さんだった。

 人手が足りないから手伝うように言われるのは、今までにだってよくあったことだから、僕はうなずいて父さんのあとを走った。

 重症患者、か。はやくしないと手遅れになる可能性があるな……。

 重症患者が運び込まれてきたとされる病室の中に飛び込んだ瞬間、僕は目の前の光景を疑った。



 運び込まれてきた重症患者は――紛れもない、あの桃花さんだったんだ。