桃の花を溺れるほどに愛してる

 僕は1番後ろの窓際の席だったので、釣られて窓の向こうに目をやる。

 次の瞬間、僕は目を見開いた。

 彼女が……桃花さんが、制服姿で校門に立っていた。何も言わず、じぃーっと校舎を睨みつけている。


「だれかの妹が忘れ物を届けに来てくれたんじゃね?ってか、アイツ、かわいくね?」

「兄か姉の友達ですーっつって代わりに行ってやって、ついでに連絡先でも交換してもらおうぜ!」


 クラスメートの男子たちは何やら盛り上がっている。……聴いていて気持ちいいものではないので、僕はただただ桃花さんの方を見ていた。

 仮に、本当に兄や姉の忘れ物を届けに来たのだとしたら、それはだれなんだろう?桃花さんに兄や姉がいるって、聞いたことがないんだけれど……。

 他に用事があるっていっても……こんな時間に?何をしに来た?学校はどうしたというのだろう?

 次々と疑問が思い浮かぶ中、桃花さんは動き出した。


「おっ!アイツ、何か取り出したぞ!」

「でっかー?!なんだ?あの大きい白紙は?!」

「おい!あの紙、何か書いてんぞっ」

「“お兄たん、はやくおりてこないとプンプン★だぞ♪”とか書いているんじゃ――……」


 楽しそうに桃花さんの実況をしているクラスメートたちだったけど、桃花さんが取り出した白い紙に書かれている赤い文字を読んだ瞬間、みんなは凍り付いた。