桃の花を溺れるほどに愛してる

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 ――彼女に、何かあったのだろうか。

 僕の夢を探し出してくれた彼女……桃花さんは、次の日から病院の屋上に、パタリと来なくなった。

 また僕が死のうとしたら、引き止めにやって来てくれるかな?

 そんなバカな考えを思い付いた僕は、実際に実行するつもりはないけれど、屋上から飛び降りようと端に立って、自殺するフリをしてみたりした。

 けれど、当然だけれど、彼女は僕を引き止めにはやってはこなかった。

 勉強や、友達付き合いで忙しいのかもしれない。楽しい毎日を過ごしているのかもしれない。

 ……そうだよな。僕なんかと会話をするより、そっちの方が学生らしくていいよな。って、一応……僕も学生なんだけれどね。

 家に帰ると、姉の夏美さんが顔面蒼白で僕に飛び付いてきた。


「どうしたの?夏美さ……」

「いいから!いいからテレビを見て!」


 テレビ?なんだろう?まぁ、夏美さんのことだから、ダイエットや恋人に関することかもしれないなぁ……。

 以前、“こういう女は嫌われる”とかいう番組内容を見た夏美さんは、「すべて自分に当てはまるから彼氏に嫌われるー」とか泣きわめいて、なだめるのが大変だったし。

 そんな軽い気持ちでリビングに置かれているテレビに目をやると、それはニュース番組だった。

 それを見た僕は、思わず手に持っていた学校のカバンを落とす。

 画面にうつっているのは……間違いない、見間違えるもんか。



 ――天霧総合病院だった。